マンダレイ デラックス版 [DVD]

マンダレイ デラックス版 [DVD]

<補足作品情報>

上映時間:139分
製作国:デンマークスウェーデン/オランダ/フランス/ドイツ/アメリ
初公開年月:2006/03/11
R-18指定


監督:ラース・フォン・トリアー
製作:ヴィベク・ウィンドレフ
脚本:ラース・フォン・トリアー
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
衣装デザイン:マノン・ラスムッセン
音楽:ヨアキム・ホルベック
ナレーション:ジョン・ハート

出演:ブライス・ダラス・ハワード(グレース)
   イザック・ド・バンコレ(ティモシー)
   ダニー・グローヴァー(ウィレルム)
   ウィレム・デフォー(グレースの父)
   ジェレミー・デイヴィス(ニールス)
   ローレン・バコール(女主人)
   クロエ・セヴィニー(フィロメナ)
   ジャン=マルク・バール
   ウド・キア


ノミネート履歴:
カンヌ国際映画祭(2005年)
 パルム・ドール ラース・フォン・トリアー

ヨーロッパ映画賞(2005年)
 撮影賞 アンソニー・ドッド・マントル
 音楽賞 ヨアキム・ホルベック
 プロダクションデザイン賞 Peter Grant

 ラース・フォン・トリアー監督のアメリカ三部作の二作目。『ドッグヴィル』に続く監督の「妄想」映画である。ギャングの娘であるグレースは、古い価値観の父親と折が合わないと感じており、ドッグヴィルを発った後に再び機嫌を損ねる。そんな時、合衆国憲法修正13条で廃止されたはずの奴隷制度が存続していた村、マンダレイを通りかかる。住民に泣きつかれたグレースは、「慈悲の心」からマンダレイで車を降りる事を決意する。彼女の到着直後、奴隷制度を続けてきた「ママ」と呼ばれる人物が死ぬ。これを好機と捉えたグレースは、マンダレイを理想的な自由主義を体現した村にしようと考える。「ママの法律」に縛られた住民たちを「解放」しようと画策するグレース。綿花の収穫の時期までに少しずつ彼らは変わっていったように見えたが・・・。
 相変わらず暗いテイストの映画。観た感じでは監督の色が遺憾なく発揮されているように見える。しかし、僕としてはこの作品は不満であった。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『奇跡の海』、『ドッグヴィル』に見られたような、徹底的な虚しさ、過剰なまでにデフォルメされた人間の暗さは、この作品からは感じられない。監督らしからぬ妥協を感じる。確かに、結末に向けて人々の心は救いようの無い方向へと傾いていく。しかし、それらはどこか空々しく、距離を置いて見られる程度のファンタジーに思えた。語りすぎたのかもしれない。あるいは、役者に恵まれなかったか。情熱的な冷たさのようなものはどこか影を潜めていて、多分にドラマチックであった。ラース・フォン・トリアーの作風が変わってしまったかと一瞬疑う。
 ただし、所々見せる構想はやはり独創的だ。管理する者、管理される者の相互依存的関係。半端な「慈悲の心」など役に立たないどころか毒にさえなり得る。結局利己的な希望にすがりつきたいと思っているだけではないか。一つの完成されたシステムに強権的に入り込もうとすることは、ただの植民でしかない。コンクェストである。それこそ、アメリカという国の拭いきれない毒であり、また白人たちの盲目的な正当性なのであった。正にポストコロニアリズム。そうしたことが、何のオブラートも無く語られる。結局何も変わらない。最も大切なのは、何もしないことだったのだ。
 独創的であるからといって、決して受け入れられる思想ではない。しかし、重要なのは、容易に受け入れられないということである。何故受け入れられないのか。受け入れられないところから一歩も進めなければ、結局はグレースと同じ轍を踏むことになりはしまいか。ただし、多くの人とグレースが決定的に違うのは、受け入れた上で入り込むという態度を決めたことである。これは何を意味するのか。
 もちろん、これらのトリアー式イデオロギーはあくまで妄想でしかない。当事者である黒人たちが必死になって(半ば意固地になって)守ってきたアイデンティティーは、この作品からは非常に表層的なものとしてしか感じ取ることができない。何も、黒人たちに対して誠意を見せろと言いたいわけではない。こうした考え方はラース・フォン・トリアーにしてみれば不本意以外の何ものでもないであろう。彼は、彼なりのやり方で、言ってみれば奴隷という問題に取り憑いて、ある種の映像、表情、感情を撮りたかっただけかもしれない。しかし、寄生する依り代を間違えてしまったように感じる部分も多々あることは否めない。
 カメラワーク、人物の撮り方は面白かった。追い詰められた人間を撮るのが相変わらずうまい。銃を撃って泣き喚くグレースなど圧巻であった。話のテイストに小技を入れてくる(最後の父親のエピソードなど)あたり、やっぱり少し変わっているのでしょうが。
 何となく今後もマークしておく。