トリコロール/白の愛 [DVD]

トリコロール/白の愛 [DVD]

<補足作品情報>

監督:クシシュトフ・キエシロフスキー
製作:マラン・カルミッツ
製作総指揮:イヴォン・クレン
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
   クシシュトフ・キエシロフスキー
撮影:エドワード・クロシンスキー
音楽:ズビグニエフ・プレイスネル
出演:ズビグニエフ・ザマホフスキー
   ジュリー・デルピー
   ヤヌシュ・ガヨス
上映時間:92分
製作国:フランス/ポーランド
初公開:1994/08
受賞履歴:ベルリン国際映画祭(1994年)
     監督賞 クシシュトフ・キエシロフスキー

 映画は観ていたのだけれど、何だか更新する気にならなくてついつい間があいてしまいました。ということで、少しずつ観た映画のレビューを載っけます。日付は暫く適当です。
 キェシロフスキーの三部作、「トリコロール」の二番目の作品。作品のテーマは、「白」を扱っているだけあって「愛に平等は存在するのか」というもの。恋人、結婚相手との愛は本当に平等なのか。双方公的で報われているものなのか。キェシロフスキーはこの部分に痛いくらい突っ込んでいる。
 妻に一方的に離婚を告げられ、離婚裁定も成立してしまった男。捨てられた理由は、彼が「不能」だったから。彼は腕利きの美容師で、故郷のポーランドから遠い地パリまでその名声を手に妻とやってきていたが、妻を失い、働き場所も失ってしまったため、路頭に迷ってしまう。そんな中、ポーランド人の男に出会い、彼の策略ですったもんだの末ポーランドに帰ることに成功する。捨てた女に復讐するために、彼は裏取引の仕事を始め、金を稼いだ後見事に彼女への復讐を成立させることができるのだが・・・。

 失われて初めて知る愛。自分がどれだけ愛されていたのか、自分がどれだけ相手のことを愛していたのか、最も身近であるはずの感情であるからこそ盲目になってしまう。「何となくの仕合せ」は人を満足させない。手放すことで自由になれると勘違いしてしまう。しかし、手放す「権利」を持っている気になっている時点で、そこには一方通行的な想いしか無い。平等に通っていたはずの愛は、いつしかバランスを壊してしまっていることに気付かず、そして、壊れたバランスを建て直す努力もせず、ゴミ箱に葬って初めて、二度と戻らないことを知って初めて、平等の意味を知る。

 男は、妻に似た白の彫像を大切にし続ける。毎晩のようにその像を見つめ続ける。しかし、「彼女」はいつでも彼を見下ろすことしかしない。受動的な愛。鳴らない電話に草臥れて自分から電話をかけてしまう男。彼はまた、別れた直後にかけた電話の釣りである2フランを最後まで持ち続ける。二人を繋ぐ糸をどこまでも切れないようにし続けてきた。失われていい物など無いことを知っているから、彼はどんな人に対しても平等であったけれど、女にだけは特別だった。
 彼は、自分の死を演出することによって女の自分に対する愛を確かめようとした。涙する女を確かめ、哀しみに暮れる彼女の前に姿を現し、さらには莫大な保険金を彼女宛にすることによって、これ以上無い復讐を完成させる。女にも失う苦しみを「平等に」味わわせたのだ。
 この作品の素晴らしいところは、ラストに詰まっている。ラスト、男は女が入れられた監房を訪れる。二人はお互いにその存在を認める。女は手話で何事かを語る。その意味を知って、男はこれ以上無い笑顔と共に一筋の涙を流すのだ。彼らは何を了解したのか。

 三部作の中では、一番この作品が僕は好きです。ウィットに富んでいるだけでなく、テーマ性、キャラクターがすごく生き生きと描かれている。もちろん映像の美しさも失われていない。
 もう一度観たいと思った映画だった。