<補足作品情報>

上映時間:125分
製作国:アメリ
初公開年月:1994/04


監督:ジョナサン・デミ
製作:エドワード・サクソン
   ジョナサン・デミ
製作総指揮:ゲイリー・ゴーツマン
      ケネス・ウット
      ロン・ボズマン
脚本:ロン・ナイスワーナー
撮影:タク・フジモト
作詞作曲:ニール・ヤングphiladelphia
     ブルース・スプリングスティーン“Streets of Philadelphia
音楽:ハワード・ショア

 
出演:トム・ハンクス
   デンゼル・ワシントン
   ジェイソン・ロバーズ
   メアリー・スティーンバージェン
   アントニオ・バンデラス
   ジョアン・ウッドワード
   チャールズ・ネイピア
   ロバート・キャッスル
   ロジャー・コーマン
   ジョン・ベッドフォード・ロイド
   チャンドラ・ウィルソン
   ウォーレン・ミラー


受賞履歴:
アカデミー賞(1993年)
 主演男優賞 トム・ハンクス
 脚本賞 ロン・ナイスワーナー
 主題歌賞 ブルース・スプリングスティーン 作詞・作曲 Streets of Philadelphia
      ニール・ヤング 作詞・作曲 philadelphia
 メイクアップ賞 Carl Fullerton
         Alan D'Angerio
 
ベルリン国際映画祭(1994年)
 男優賞トム・ハンクス

ゴールデン・グローブ(1993年)
 男優賞(ドラマ) トム・ハンクス
 脚本賞 ロン・ナイスワーナー
 歌曲賞 ブルース・スプリングスティーン "Streets of Philadelphia"

英国アカデミー賞(1994年)
 オリジナル脚本賞 ロン・ナイスワーナー

MTVムービー・アワード(1994年)
 作品賞
 歌曲賞 ブルース・スプリングスティーン “Streets of Philadelphia
 男優賞 トム・ハンクス
 コンビ賞 デンゼル・ワシントン
      トム・ハンクス

 何となく名前は知っていたのだけれどどういう映画なのかよくわかっていなかった。トム・ハンクスが役作りのために激痩せまでした作品であり、彼の存在感が遺憾なく発揮されている。役作りのために激痩せだの激太りだのする映画は大抵重い。「モンスター」なんて正にその典型であった(と書きながら、「モンスター」のレビューを書いていないことに気付く。気が向いたらということで)。しかし、この作品にはそうした映画に見られるある種の「必死さ」のようなものがなくてよかった。安心して入り込むことができた。
 有能な弁護士のアンディは、同性愛者であり、かつHIVウィルスに体を蝕まれていた。彼は、不本意に思いながらもその事実を隠して仕事をこなしていたが、エイズの一症状であるカポジ肉腫の「アザ」をある同僚に見られ、その後解雇されてしまう。アンディは様々な疑惑から、自分がエイズに冒されており同性愛者であるから解雇されたと確信し、かつての同僚たちに対して訴訟を起こす決意をする。
 トム・ハンクス扮するアンディの役回りが非常に重要かつ重い。同性愛者を演じながら、エイズに体を蝕まれ死にゆく男をも演じなければならない。さらには、自らの正義を信じて権利に立ち向かおうとする男をも演じなければならない。こんなことができたのはトム・ハンクスしかいないのではないのかというくらいの演技であった。もちろんトム・ハンクスだけではない。激しいホモフォビア(同性愛嫌悪)を抱えた弁護士を演じるデンゼル・ワシントンも、アンディの恋人役を演じるアントニオ・バンデラスも、その他の脇役たちもがっちりと固めている。
 この映画の何がすごいと言えば、やはり公判の場面であろう。陪審員前で証言をする証言人の一人一人も、両者の弁護士の様子も、判事の様子も、何もかもが一つの社会を反映している。エイズ患者に近づくのを露骨に嫌がる、被告側の弁護士の様子など、笑えるくらい(もちろん笑ってなどいられないのだけれど)。口ではどれだけ偽善で飾っていても、結局みんな「一人の人間」なのである。少しの疲れがその人の本音を引き出す。その吐露が、表情が、非常に生々しくこの映画の中で表現されているのだ。それは被差別側にしても同じ。その状況に思わず涙が流れそうになる。涙を流そうとする自分は、まだセンチメンタルな現実に酔っているのかもしれない。そんなに客観的にいられるのだろうか、自分は。そんな自問自答さえも引き出される。
 基本的にこの監督は色々な部分を敢えて見せている。隠さない。答えも用意しない。有り得そうな事実を観る者に突きつけるだけ。


 結末で恐らく社会の意識は少しだけ変わっただろう。少しだけ。そこで一人の命が犠牲になったとしても。しかし、それが確実な変化であることを、きっと信じている。そうでなければこの映画は撮られなかった。